「評価されたい自分」と「評価されなくていい自分」は、なぜ同居するのか?
成果は出ているのに、心はなぜか満たされない。
仕事にモチベを見つけようとするほど、余計に空回りする。
――そんな矛盾、抱えていませんか?
本記事は、私がやっている内省支援での ある若手ビジネスパーソンとの対話(個人が特定できる要素は除去)の記録をそのまま公開します。
リアルな対話のそのままの記録だからこそ、等身大で「生活のための軸」と「満たされるための軸」をどう両立させるかについて共感できることが多いかなと思います。
この記事が解決する悩み
- 仕事では評価されるのに、喜びの源泉が見つからない
- 「やりたいこと」を見つけるか/育てるかで迷っている
- 他者の評価に振り回される自分と気にしない自分の扱い方がわからない
- 一本化できない自分を「中途半端」と感じてしまう
読むと得られるもの
- 評価と充足がズレる構造の見取り図
- 仕事と私事を分けて育てる“二本柱”の設計図
- 「種に水をやる期」の実装ステップ(何を増やさず、何を深めるか)
“無理に一本化しない生き方”という選択肢が、実例ベースで見えてくると思います。
対話の記録
導入
たばこや:いきなり2人で2時間話してください、って緊張しますよね。こちらも飲み物片手に、肩肘張らずに話せたらと思います。お互いできるだけ本音で話せる時間にしましょう。今日はよろしくお願いします。Mさんからの紹介でしたよね?
Nさん:はい、そうです。いわゆる企業の SPI みたいな性格診断の話から、「自分がこれから何をしたいか、自分軸がまだ見えていない」という相談をしていた時に、「こういうのやってみたら?」と紹介してもらいました。
たばこや:嬉しいですね。Mさんとはどういう関係なんですか?
Nさん:普段はメディア会社Aで営業をしていますが、別で団体Bの事務もやっています。立ち上がって間もない時から関わり、事務作業や告知、制度づくりなど。団体Bの方と飲み会でご一緒してから、事務の手伝いの話をいただきました。自分は皆さんの「やりたい」を形にしていくのが好きで、やってみたいと思ったんです。Mさんとはその集まりの飲み会で出会って、そこから仲良くしていただいています。
たばこや:飛び込み営業からのご縁で、今は事務も。面白い流れですね。
Nさん:はい。出会ってからはまだ1年経っていないくらいです。
たばこや:メディア会社Aの営業だけで終わらず、団体Bの事務まで。普通じゃない動きですね。
Nさん:個人的にいろんな活動をするのが好きでやっていますが、会社でも「今までにないタイプ」と言われます。
お互いの自己紹介
たばこや:本名で「たばこや」と言います。タバコは吸いません(笑)。石川出身で、高校までは自分は優秀だと思っていました。進学校の進学クラス、山岳部は廃部寸前から全国大会まで持っていって、「自分はできる」と。ところが慢心して大学を一校しか受けず落ち、フリーターに。そんな時に「仁の会」という自己内省のコミュニティに出会い、その後、採用支援の営業職に就いたけれど最初は全然できず、1年経たずに地域へ異動。失敗だらけでしたが、内省はずっと続けて、自分の納得感のある働き方を積み重ねた結果、いまは上場企業内で子会社を立ち上げ取締役になり、別で『ふらっとベース』というコミュニティ活動や、『みんなの談話室』という内省コミュニティの運営、内省支援の活動もしています。失敗は多いけれど、内省で生きやすくなったので、今日はNさんの力になれたらと思っています。
Nさん:ありがとうございます。よろしくお願いします。
たばこや:Nさんは普段、何て呼ばれることが多いですか?
Nさん:「Nさん」がいちばん多いです。今日もそれでお願いします。
たばこや:了解です。新卒からメディア会社Aの営業なんですね?
Nさん:はい、今2年目です。
たばこや:メインの仕事以外も1年目から始めてる? だいぶバグってますね(笑)。
Nさん:1年目からです。仕事は大好きです。
たばこや:メディア会社Aの業界は今、必ずしも花形産業ではないのに、なぜその道を?
Nさん:高校の頃はドラマが好きで放送局や制作会社に入りたかったのですが、大学でも動画制作に関わる仕事をしていましたが、「40歳になってもこれを続けられるかな?」と。そこで、動画に関わらず様々な領域で情報提供できるメディア会社Aに入りました。今はマーケティングなどイベントや企画、Web系なども幅広くやっています。
たばこや:新卒2年目でもいろいろ任されているんですね。団体Bの事務はいつから?
Nさん:去年の11月頃、1年目の途中からです。
たばこや:会社に慣れてないタイミングで新しいことを始める抵抗感は?
Nさん:特にありませんでした。3ヶ月くらいで業務の全体像が見えてきてから、プライベートの時間も充実させたいと思ったことに加え、もともと飽き性で駆け持ちが性に合うタイプだったのではじめてみました。学生の頃もバイトを常に4つ持っていました。1つに絞るより、いろいろやっていたいタイプです。
たばこや:「ひとつに重心を置いてプロになれ」と言われる文脈は苦手そうですね。
Nさん:そうなんです。最近は「この先どうしたいの?」とよく聞かれて困ります。昔は「稼ぎたい」が一番で寝る時間を削っても頑張れたけど、今はその欲求が薄くて、何をモチベーションに頑張るか難しく、探しているところです。
たばこや:Nさんの同年代にはあまりいないタイプですよね。
Nさんの特性のルーツ
たばこや:過去を振り返ると、そのスタイルはどこから?
Nさん:10年ほど続けた習い事が大好きでしたが訳あって辞めたことが人生で一番の挫折で、学校にも行かなくなりましたが、「このままじゃダメだ」と短期留学など新しいことに挑戦。その時にコミュニティを複数持つ大切さを知りました。どこかダメになっても別の居場所があれば切り替えられる。そこから「1本に賭ける」より「分散して複数を回す」スタイルに変わったんだと思います。今はいい経験だったと話せますし、最近は「もう少し何かに集中して没頭する瞬間も欲しい」とも思い始めています。
たばこや:その習い事に全力だった自分が今の自分を見たら、何て言うと思いますか?
Nさん:「もう少し本気で何かに打ち込めないの?」と言うかも。父にも似たことを言われる時があります。
たばこや:逆に今の自分が当時の自分に言うなら?
Nさん:「やめ方にもう少し柔軟性があってもよかったかも」。怪我の事情はあるけれど、関連の道も考えられたかもしれない。進学のタイミングでもあり、親は勉強重視で、結局は進学校を選びました。
たばこや:当時は視野が狭く、本気と柔軟性の両立ができなかった。でも今は視野は広い一方で、集中が分散している感じもある。時々「これでいいのかな?」と自問が湧く——そんなところですね。
Nさん:はい、その通りです。
たばこや:では、そのあたりを今日さらに深掘りしましょう。
仕事のモチベーションについて
たばこや:まずは「仕事のモチベーション」について。最近どうですか?
Nさん:2〜3週間前、本気で「やめたい」と思った瞬間がありました。きっかけは、海外へのひとり旅。普段から小さな旅行はするけれど、SNS で見たままの場所は感動が薄いことも多い。でも今回はほぼノープランで行って、英語も得意じゃないから失敗だらけ。話は通じないし電車も間違えるし、といった具合でしたが、それが逆に誰の目も気にならないのがすごく楽で。会社では入社時から期待され、期待値を越えることが前提になり、失敗しづらいモードに入っていました。完璧主義なところもあり。そこで「この会社で失敗しながらやりたいこと、あるかな?」と思ってしまって。ちょうど自分の興味関心にとても近い求人を見つけ、「面白そう、行こうかな」と真剣に考えました。
たばこや:なるほど。
Nさん:でも、せっかく入った会社だし、人には恵まれている。面白い人が多く、遊び心もある。もう少しここでできることを探して向き合ってもいいかもと思い直し、価値観が似ている先輩に電話して話を聞いてもらいました。人に話すと落ち着くタイプで、一旦は「やめよう」は薄れました。ただ、飲み会で職場の先輩方に「モチベーションはどこに置いてますか?」と聞いても、インセンティブもないし「義務かな」という答えが多い。自分には守るもの(家庭など)も今はない。入社当初は「これができるようになる」という目標があったけど、今は自分で設定しないといけなくて、それが難しい。そこを見つけたいです。
たばこや:会社の嫌なことが理由というより、海外での新鮮な失敗体験がポジティブに背中を押した「やめたい」だったのですね。珍しいケースで、面白いです。
Nさん:そうですね。ネガティブな要素は、せいぜい“売上が悪い”くらいで、会社に不満はあまりないです。
たばこや:さっきから、あまり聞けないタイプの話が多くて、聞いていて楽しいです。
Nさん:会社では1年目は商材を知ってひたすら飛びこみしたり、引き継いだクライアントの担当、企画の設計などしていました。2年目からは自分で利益率なども加味しながら与えられた条件で出来ることをクライアントの満足度を落とさずにどこまで出来るかを考え、企画設計することに注力しています。
たばこや:ゴールとリソースが提示されて、「あなたのやり方で達成して」と言われると強いタイプ?
Nさん:そうです。0→1でゴールを作るより、既定のゴールに向けて、ある道具・手法・人材を組み合わせて達成していくのが得意ですね。
たばこや:戦略系ボードゲームの「与えられたルール内で勝つ」に近い思考?
Nさん:テレビゲームは苦手ですが、トランプの大富豪みたいなものは好きです。持ち札と場の流れで最適解を探る感じは近いと思います。とはいえ、家がゲーム禁止だったのでほとんど触れていません。最近は「現実がゲーム」だと思っていて、営業も“どう金を取るか”のゲームとして楽しめています。
たばこや:なるほど。Nさん自身、自分が“普通じゃない”自覚はある?
Nさん:あります。周りと違うのは確かですね。
メディア会社Aにいることに意味があるとしたら
たばこや:Nさんの特性だと、メディア業界の別ルートや、違う未来もあり得た。でも結果としてメディア会社Aの営業という、レアな組み合わせに来た。そこに“意味”があるとしたら?
Nさん:自分が苦手にしている「大企業・組織」での動き方、特に“人をどう活かすか”を学ぶこと、かもしれません。だからまだ可能性を感じて、すぐ辞めようとは思わないのかな。実際、社内営業に力を入れています。感情ベースな人たちとどう付き合うかが、ミッションとして与えられている感覚があります。私は本来、仕事に感情を持ち込む意味が分からないタイプなんですが。
たばこや:もし、その“感情ベースの人たち”とも協働しなければならない環境にいる意味があるなら、将来、そういう多数派を巻き込むレベルの大きなことへ繋がるかもしれない、という見立てもできますね。
Nさん:確かに。「巻き込む」はミッション感があります。自分の名前で売るより、企画そのものに価値を持たせたい。今は「Nさんだから任せる」と見られがちで、それが自分のポジションになっている。でも、私自身が評価されるより、私が生み出す仕組み・コンテンツが評価される方が嬉しいんです。
たばこや:多くの人は“自分”が評価される方が嬉しいのに、Nさんは“成果物”が評価される方が嬉しい。なぜだと思いますか?
Nさん:“自分が認められたい”は、ある程度満たされたからかもしれません。
自己肯定感の話
Nさん:大学の頃は自己肯定感が低かったけど、サークルをやめ、バイトを増やして稼げるようになり、評価とお金がついてきて、少しずつ自己肯定感が上がりました。親に大きめの仕事を担当したことを送って喜ばれたり、勉強以外でも価値を示せるようになったのも大きいと思います。
たばこや:親から離れ、他者評価(特に親)への囚われが相対化され、別の軸で“できる自分”を獲得して自己肯定感が上がった、と。
Nさん:そうです。親とも対等に話せるようになった実感があります。
たばこや:では逆に、もし結果がまったく出なくなった自分にも価値を見出せますか?
Nさん:正直、ないと思ってしまう。だから“不安”が原動力になって、頑張れているんだと思います。負けず嫌いでもあるし。強くない自分には耐えられないかもしれない。
たばこや:お父さんの影響もありますか?
Nさん:あると思います。小6の卒業時に「人が動くのは金か圧倒的な何か。最終的に自分を信じられる人は強い」という手紙をもらいました。父は研究気質で、職場では上司にもズバッと言うタイプ。普段は温厚ですが、その一面は似ているのかもしれません。父は一つを極めるタイプで、私は真逆ですが。
たばこや:“競争に勝つ/評価される”がなくても、やりたいことや幸せな時間はある?
Nさん:あります。私は競争が嫌いで、スポーツも大嫌い。人と比べることに意味を感じません。自分が良ければそれでいい。ただ、その姿勢で評価されない場面も当然あります。社内でも私の自由奔放さを嫌う人はいる。そういう時は、必要な用件だけ話すようにしています。
たばこや:親に最後まで認められなくても“幸せ”と思える未来は?
Nさん:パートナーが100受け止めてくれるなら大丈夫だと思います。1人だと正直しんどいかも。実は8月末に3年付き合った人と別れました。フランスに行く前にけじめをつけたんです。その影響もあって、ここ2週間くらいは普段と違う揺れがありました。
過去のパートナーとの話
たばこや:いいですね、弱い部分ももう少し教えてください。
Nさん:その人とは、大学4年〜社会人1年目くらいの時期に付き合いました。私は当時、仕事を詰め込みすぎていて、彼に「心配だからセーブして」と言われ、実際に働き方を半分くらいに落としました。誰かの影響で自分の判断を変えるのは初めてで、依存や情が生まれることに怖さもありました。
たばこや:出会いのきっかけは?
Nさん:最初は顔がタイプ(笑)。でも本をよく読む人で、外国語も少しできて、シフトが被っていなかったから知らなかったけど偶然バイト先も同じだった。偶然の重なりに“縁”を感じるタイプなので、LINEを交換して飲みに誘いました。彼は超奥手で、コミュニティでも無口。何度か会う中で私から「この関係どうする?」と聞いて、そのまま付き合うことに。その日からほぼ同棲でした。
たばこや:そこからは?
Nさん:彼に心配されて働き方を落とし、徐々に情が深まる一方で、彼の熱は落ち着いていく。典型的な男女で異なる感情の起伏に不安になったりもしました。
たばこや:大切にされていない、優先されていない感じって、だんだん出てきますよね。
Nさん:そうなんです。毎日家にいたし、浮気の気配もなかったけど、どこか“足りない”と感じてしまって。何度か気持ちを聞いたけど、「冷めたわけじゃないけど、社会人になって疲れてるだけ」と。あと、彼の親に会ったときに、感覚的に「合わないかも」と思ってしまって。その違和感がきっと正しいと思いつつ、そんなことはないのかも信じたい気持ちもあり、本来ならスパッと切るところを、情があって1年ほど続けてしまった。自分の意思ではなく気持ちで動く状態。普段にない弱さだったと思います。
たばこや:「心が頭を追い越すこと」を弱さと呼ぶの、面白いですね。弱さというより“心を大事にする時間”とも言えますよね。さっきまでの印象と違う側面が見えて、良いですね。
Nさん:弱さで言うと、私は“押しに弱い”かもしれません。割となんでも「じゃあやります」と受けがち。会社でも基本断らないです。
たばこや:なるほど(笑)。
Nさん:結局、だらだら続けた関係を8月末に終わらせました。普段の私ならもっと早く切り替えられたはずなのに、彼は“無条件に信用できる”と感じた珍しい相手で。私、まともに付き合ったのはその人だけなんです。付き合える人は他にもいたけど、「付き合う必要があるか?」と思ってしまって。
“自分を分かってくれているか”が、相手の評価の重みを決める軸
たばこや:“信用”が大きなキーワードなんですね。会社の人は、基本“信頼”はしても“信用”までは…という感覚?
Nさん:そうです。信用しているのは家族と、高校からの女友達くらい。
たばこや:多くの人の評価には振り回されないけど、“信用した特定の人”の評価が崩れると堪えるタイプ?
Nさん:たぶんそう。彼女にも「あなたらしくない」と言われた時はショックでした。恋愛で、私が自分の仕事をセーブしてまで相手を優先しているのが残念だ、と。
たばこや:親については?
Nさん:親も“分かってくれてる”と感じます。この前帰省した時も「すごく疲れてるね」と見抜かれて。海外帰りの2週間後くらいで、仕事を辞める準備を進めていた時期でした。いつでも引き継げる状態まで整えていた。それも含めて、見透かされていました。
たばこや:尊敬する先輩への評価を気にするのは正確が似ているからで、親はタイプが違うのに気にする。共通点は“分かってくれている”こと、なのかな。
Nさん:そうだと思います。タイプは違っても、理解してくれる人の言葉は響きます。高校からの友達は私と違って真面目でコツコツ型。でも私の事情もよく知っていて、視野を広げようとライブに連れて行ってくれたり。付き合いの長さも大きいです。
たばこや:自分をよく見てくれる人には、Nさんも出力(エネルギー)を多めに返す。逆にそうでない人には温度が下がる。その違いが、周囲にも伝わって嫉妬を生むことも?
Nさん:たまにありますね、、。高校の友達は入学式で先に話しかけてくれて、私が頑張らなくてもいられる関係。旅行も段取りしてくれて、私は車を出すなどできる範囲で担う。意見が違っても機嫌を損ねない。素でいられるから“分かってくれる”と感じます。
たばこや:“自分を分かってくれているか”が、相手の評価の重みを決める軸なんですね。尊敬する先輩のどこで「分かってくれる人だ」と感じたんですか?
Nさん:その人は社内では“1匹狼でパワハラ気味”と見られてるけど、実際の仕事ぶりは気遣いが細かい。後輩に厳しく詰めるけど、フォローするし責任は自分で取る。私も似たようなやり方なので、「あ、同じタイプだ」と思いましたし、一緒に仕事をしていると「この人は私の扱いがうまい」と感じました。その人からの注意は素直に受け止められるし、褒められたら誰より嬉しい。
Nさん:団体Bの人たちも、わりと分かってくれてる感じがします。私が何を考えているのか、ちゃんと見ようとしてくれる。会社では見た目の派手さで“フロントに立たせれば良い”と短絡的に振られることが多いけど、そのフェーズはもう過ぎていて。数字に表れない小さな企画を飛び込みでコツコツ回す方が、今はモチベが上がる。団体Bでは“表に立ちたい人ではない”と理解され、事務として自由に設計させてもらえる。分からないところは経営者視点で的確に指示をくれるので、やりやすいです。
たばこや:整理すると——
- 他者評価は「分かってくれている度」によって重みが変わる。
- “好き(相性が良い・近い)”と感じる人からの評価は強く効く。
- 分かってくれる環境では、Nさんは素を出し、出力も高まる。
Nさん:その通りだと思います。だから、普段の私は“素”ではないことが多い。完璧に“演じている”自覚があります。
「素の自分じゃない職場」と「やりたいこと」の噛み合わなさ
Nさん:正直、職場では“女優”でいたほうがいいのかも、と思うくらいです。
たばこや:でも“自分じゃない状態”で頑張り続けても、やりたいことに近づけなくないですか?
Nさん:そうなんです。だから今、“頑張ってやりがいを見つける活動”自体に意味があるのか疑問です。やってはいるけど、これでいいのかなって。
たばこや:話を聞くほど、Nさんは“自分であること”が土台にないと、信用や喜びが本物にならないタイプに見える。けど普段は自分を出していない。それは、満たされない無理ゲーみたいなことなのかも。
Nさん:私、多分“この人には出していい”と感じた相手にしか出さないんです。元彼とか。初対面で目が合った瞬間に、もう感覚で分かるというか。父に似たタイプだったのもあるのかも。でも、そういう相手は少ない。
たばこや:その理屈は、サンプルが増えないと定式化しづらいですよね。仕事で、何百人とも関わっていても、Nさんが本当に幸せなのは“分かり合える10〜20人”くらいで良いのかもしれない。
Nさん:今もその“とっかかり”はあって、芸術系の学部出身なので、そっちを続けたい気持ちがあるんです。大学でも活動してたし、社会人になって一度休んだけど、また再開したくて。とある芸術系のコミュニティで出会った方々とは年代がバラバラで、初対面だからこそ何も構えずに話せた。旅行で感じた“あの自由さ”に近かったです。芸術を通すと、言語より感覚のコミュニケーションになる。相手のパーソナリティを気にしすぎずに話せるのが心地いい。
たばこや:そうですよね…。本当は感性や感情を大事にする人なのに、論理だけの戦場で戦って勝ってしまっている。戦場を間違えてないですか。。?
Nさん:逆に、芸術領域を“仕事の論理”で汚されたくない気持ちもあるんです。別軸で取っておきたい。全部を一本化して折れたら、立ち直れる自信がない。だから仕事は仕事で稼いで、芸術は芸術で自由に。バランスは大変だけど、私には楽。
たばこや:それ、すごく美しい選択。今は“二本柱で生きる”を意図的に選ぶフェーズでいいと思う。仕事は生活の手段と割り切って、こっち側(芸術)で心を満たす。いつか混ざればラッキー、置き換わってもラッキー。そして“仕事の中にモチベを見つけねば”を一旦やめてもいい。
Nさん:確かに。芸術活動の資金を稼ぐ、と考えたほうが素直に動けるかも。
Nさんの心ベースで動けること
たばこや:芸術側で何がワクワクする?
Nさん:和物、とくに帯が好きです。茶道・華道もやってました。旅先でビンテージの和物を集めたり、たまにバッグも作ってます。でも、いつか“作品”として落とし込みたい気持ちがある。それに歴史が大好き。卒論は地域の伝統文化における継承の記録について執筆しました。結局、すべては歴史が証明すると思っていて、“記録して残す”ことに意味を感じます。
たばこや:原典のまま残す派? 現代語訳して残す派?
Nさん:両方。高校のとき『甲陽軍鑑』の原文を打ち起こして、現代語訳とともにスクラップしてまとめていたりしました。大河ドラマを入口に図書館で一次資料を漁ったりもしてましたね。
たばこや:完全に“心で好きな領域”ですね。
Nさん:はい。休日も普通に歴史を追ってます。考古学にも興味があって、古墳や神社の周辺を歩いたり、黒曜石を拾いに行ったり。…とはいえ衝動で突き動かされるレベルではないことも多い。誘われたらやる、くらい。たまに衝動的に動くことはありますけど。
たばこや:その衝動に行ける人生、めっちゃ大事。夢ややりたいことは“ひとつじゃないし、変わっていい”。今は“種に水をやる時期”でもいいんじゃない?
Nさん:ここ7〜8年、ずっと小さな芽をたくさん育ててる感覚で、焦りもあります。学生時代からほぼ働いてきたので、新卒2年目でも動きは全然新卒っぽくない。
たばこや:なら“探す”より“育てる”へ。芽を選んで、もう一段深く関わる時間を増やす。芸術の件がちょうどその一歩になりそう。
Nさん:そう思って応募しました。人数も多いし、ユニットでやるので、“同じ芸術でもこっち”という選択を重ねて、自分がどこに行き着くかを見たい。和物・歴史・芸術を掛け合わせるのも好きなので、いつか一本の“ねじれた木”みたいに形になる気がしています。
たばこや:そのうち“仕事でのモチベ探し”は不要になるはず。生活の軸と、満たされる軸を分けて持つ時期があっていい。
今日のハイライト
Nさん:今日のハイライトは、“評価されたい私”と“評価されなくていい私”が同居していて、その違いは“私を分かってくれる人かどうか”にかかっている、と言語化できたこと。そして“心を出している状態”が満たされるのに、仕事では心を出していない——この構造が矛盾を生んでいた、と理解できたことです。
たばこや:無理に仕事で心を出さなくてもいい。“暮らしのためのゾーンの私”と割り切れば悩みは減る。それに、元彼との3年は、仕事100%の自分を一度ゆるめて“安定も求める自分”を知る時間だったのかもしれない。MBTIみたいな診断でもど真ん中に寄るなら、振れ幅の両端を体験できたことに意味があったはず。
Nさん:確かに。知らなかった自分を知ることができた3年間でした。
たばこや:次に話すとき、また全然違う景色かもしれないですね。動き続けること自体を“軸”にしてもいい。好きなものは歴史や和みたいに動きが少ないけど、やがて混ざり合っていく気がする。
~~~事務連絡~~~
Nさん:今日はありがとうございました。
たばこや:こちらこそ。めちゃくちゃ面白かったです。
たばこやの所感
「評価されたい自分」と「評価を気にしない自分」がどちらも確かに存在する。
それは実は、矛盾に気付き、目を向け、なぜだろう?と考えられたことがとても大きな気づきを生んだように思います。
今回の対話で見えたのは、「評価されたい自分」と「評価を気にしない自分」は、二者の衝突ではなく“適切なスイッチング条件”の不在でした。
評価の重みは「分かってくれる度」で跳ね上がる。
誰の称賛でも効くのではなく、理解密度が高い人の言葉だけが燃料になる。
ここを言語化できたことで、「理解 × 評価 = 満たされた気持ち」という式に置き換えられたのが大きいなと思います。
そして、この「理解」というのが大切な要因でした。
演じたまま成果を出して、それで評価されても、満たされない。演じている以上、真に理解はされていないので、納得感は貯まらない。
これは努力不足ではなく前提条件のミスマッチ。
努力の量を増やす話ではなく、心を出せる場への配分を変える話だと整理できました。
仕事=生きがい、である必要はない。
むしろ「生活を支える軸」と「心が満たされる軸」の二本柱で設計する時期があったって良い。
今回その許可が出せたのは、今後の意思決定に効く“根の張り替え”だと思います。


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